埋葬された理性






薄い布越しの肩甲骨に両手を伸ばした。ずっと触れてみたいと思っていた。



「どうしたのです?」

言いながら椅子ごと振り返ったジェイドの手首を掴み、覆い被さるようにキスをした。こうして触れてしまったら、もう我慢出来ない。肉の無い背中の、何と儚いことか。しっかりしているようで、しかし軍人の癖に細すぎる手首は、俺の指が楽に一周してしまう。俺の握力なら骨を砕くまではいかなくとも、皹を入れることくらいは出来るかもしれない、と思うくらいには。力を込めると、ジェイドの腕がピクリと反応した。

「ん…っ、ガイ…っ」

インクの入った小瓶が、カタリと小さな音を立てる。万年筆が手から滑り落ち、書き掛けの報告書に染みを造った。完成間際であろう報告書が一枚、無駄になってしまった。ジェイドは一瞬それを案じたが、強引に舌を差し入れ歯列を割くと、案外素直に応じた。温かな舌先と舌先が絡み合い、そして唾液が掻き混ぜられていく。

何度も何度も想像していたキスは、本当に甘かった。微かにミルクティーの味がして、甘いというよりは甘ったるい。その他に、いい匂いがする。香水だろうか。それとも、ジェイド自身の匂いだろうか。ジェイドからは人間らしい汗の匂いだとかが、まったくしない。花でも食べているんじゃないかと思うくらい、甘い匂いがする。もしかしたらそれがジェイドの体臭なのかもしれない、と思った。

「んっ!」

胸を叩く衝撃に気付いて角度を変えると、ジェイドは隙間から酸素を取り込もうと精一杯に口を開けた。ひゅ、とジェイドの喉が鳴る。何度も角度を変え、口内を犯した。舌を絡ませる度に誘うように小さな喘ぎが漏れ、呼吸が儘ならずに目尻には涙さえ浮かび始めている。金色の睫毛が涙に濡れ、キラキラと輝いていた。ハニーブラウンの髪は乱れ、益々俺を煽っていく。

――嗚呼、駄目だ。もう止められない。

「…はぁ……っ」

一旦唇を離すと、トロンとした表情でジェイドが俺を見上げてくる。ほら、こんな風にジェイドは時に無防備なのだ。俺に対しては特にそうだった。信用されているのか、または見縊られているのか。…悔しいが、きっと、後者だろう。

俺はジェイドを『性の対象』として見ているのに。それを、ジェイドはきっと理解していなかったのだろう。知っていても、本気にはしていなかったのだろう。

「…ぁ、ガイ……ん、ん……っ」

理解していなかった結果がコレだ。まだ解放してやるつもりも、ましてや、酸欠なんて気にしてやる余裕は無い。欲望を真っ直ぐにぶつけることに必死で、状況なんて理解出来ない。


嗚呼、俺は今ジェイドを支配している!



理性など、疾うに埋葬してしまっていた。もう、俺を止めるストッパーは、何も残っていない。俺は蒼い軍服の合わせに手を掛けると、ほんの少しの躊躇も無く引き千切り、ジェイドの白い肌に舌を這わせた。