主従関係
「ジュエリーを贈ることは独占欲の表れ、飼い猫に首輪を与えるように自分に縛り付けて置きたい、という欲望の表れである…か。ふむふむ。…なあ、ジェイド」
「嫌ですよ」
「まだ何も言っていないじゃないか」
「そんな本を読む暇が有るのならさっさと執務に戻って頂きたいのですが…何か御用ですか陛下」
「…ったく、取り付く島も無いな。そう冷たいことを言うなよ」
窘めると、腹心は諦めたように短く溜め息を吐いた。とりあえず、話は聴いてくれるらしい。
「この本の話だがな、自分に縛り付けて置きたいと思うならジュエリーよりも、そのまま首輪を贈った方が良いとは思わないか?……てゆうか、俺ならそうするんだが」
「…善悪はわかりかねますが、余程変わった嗜好の女性でない限り、ジュエリーの方が喜ばれると思いますよ」
「良いことを教えてやろう、俺はお前に贈る前提で言っている」
「…私に、首輪を、贈ると?」
「端的に言えば、そうだ」
「…私は既に貴方に飼われている身ですので、縛り付けて置かなくとも、逃げ出しはしませんよ。私は『懐刀』ですからねぇ…。それでも首輪を贈ると仰るのですか?」
「ああ、いや、比喩では無くてな。そういうプレイがしたいんだ」
暫しの沈黙の後、本気ですか?と呆れ声の問い掛けに、コクリと頷くと、鋭い目付きで一蹴されてしまった。
「…オイオイ、そんな怖い顔をするな。きっと似合うぞ?」
ほら、と懐から細身の首輪を取り出すと、一瞬空気が凍った。ニッコリと微笑むジェイドの背後に、どす黒い巨大なオーラが見える。一見、天使のような微笑みだが、目は笑っていない。蔑むような視線が痛い、痛いぞジェイド。
「わっ、わかった!諦める!諦めるから、そんな目で俺を見るな。寿命が縮まる」
「…いえ、よろしいですよ。急に興味が湧きました、着けて頂けますか?」
ジェイドは徐にくるりと踵を返すと、長い髪を託し上げ、白い項を晒しながらサラリと言った。一瞬思考が追い付かずに、それでも数秒間で言葉の意味を咀嚼し終えると、今度こそ本当に寿命が縮まった。天の邪鬼も大概にしろ、とは思ったが口にはせず、細き首筋に首輪を着けてやる。思った通り華奢な首輪はジェイドに似合っていて、顔の筋肉が緩むのを止められない。ほら、やっぱりだ。俺の眼に狂いは無かったのだ。
「何か、エロいな…」
「……アハハ、それは貴方が変態だからですよ」
「認めよう。だがお前も充分アレだぞ?…さて、覚悟は出来ているな?」
「おやおや。既に臨戦態勢ですか?…良いですよ、たまには貴方を甘やかしてやるのも悪くない」
どうやらジェイドもその気になったらしい。ジェイドのスイッチがどこでどう入ったのかは定かでは無いが、突然舞い降りてきた偶然の幸福に、再び頬がだらしなく緩むのだった。