『やあ、可愛い子猫ちゃん』






ティエリアはある種達観しているが、変なところでひどく幼さを露顕させる。

例えば、口にしたブラックコーヒーの苦さに眉を顰めるところなんて、まるで子供だ。可愛いじゃないか、と思う。刹那が子供らしからぬ落ち着きっぷりをしているのと比較すると、ティエリアの感情をストレートに表す様は、ひどく幼く見えるのだ。

「ティエリア。苦いんだろ、ほら」
「…………?」
「ミルクだよ。入れるとまろやかになる。まだ、ブラックは舌に合わないんだろ?」

自然と零れる笑みを隠さずにミルクを差し出すと、きょとん、とした無防備な美貌が俺を見上げてきた。ニコッと笑いながら再びミルクを差し出す。すると、ティエリアは『不愉快だ!』とでも言うようにキュッと形の好い眉を釣り上げた。

――どうやら、ティエリアの地雷を踏んでしまったらしい。馬鹿にされたと思ったのか、それとも俺の笑顔が気に障ったのか。ティエリアの扱いはすこぶる難しい。どんどん険しくなるティエリアの表情に冷や汗が滲むのを感じる。

「ティ、ティエリア…?」

おいおいティエリア、カルシウムが足りてないんじゃないのか。

「子供扱いをしないでいただきたい!」
「…な…なぁんだよ、そんな怒るなって。な?落ち着けよ」
「俺は、別にミルクなど入れなくても、コーヒーくらい飲めます!」

そう吐き捨ててティエリアはカップに口を付けた。だが、やはり苦いようで僅かに眉を顰ませる姿を見て、俺は苦笑した。素直にミルクを入れればいいのに、そうしないのは、誰に対しての意地なのだろう。俺に対しての対抗意識だろうか。

(…あーもーほんっとに、可愛いよなぁ、お前さんってやつぁ……)

こうやってムキになるところも、ツンケンした態度にも、始めは好意を抱けなかった。正直、必要以上には関わりたくないと思っていた。だが、ティエリアの性格を理解した今では、可愛いなぁと思えるのだから人間って本当に不思議だと思う。


(…なんつーか、威嚇する子猫みたいなんだよなぁ、ティエリアって……)

血統書付きのな、と心中で付け加えて、咽喉の奥でくっくっと笑う。小さい身体で、毛を逆立てながら周りを威嚇する可愛い子猫。ピッタリじゃないか――と顔を上げると、ティエリアは俯いてふるふると震えていた。羞恥で耳が真っ赤になっている。伏せられている顔も、きっと赤いのだろう。くす、と笑うと、一層耳が赤くなった。なまじ肌が白いから、変化がよくわかる。

「…ティエリア?」

いつまでも俯いたままで震えているティエリアに、まさか泣いてるのではないかと不安になる。小さい子供をあやすように頭を撫でながら細糸のような髪を梳いてやる。一瞬ビクリと肩を強張らせたが、これは拒絶ではなく純粋な驚きなのだと、俺は知っている。ティエリアの顎に指を掛け顔を上げさせると頬が乾いたままだったことに安堵して、俺は小さく笑った。無防備な顔、無防備に開かれた唇。両の掌を柔らかな頬に移動させ、固定してから、顔を傾ける。

「――! ふ、ざけるなっ!」

あと数センチ、というところで左頬に鋭い痛みが走った。遅れてパンッと乾いた音。いい音だ、と思った。

(――え?)

頬を張られたのだと気付いたのは、ティエリアが食堂を出て行って十数秒後のことだった。



小さい身体で、毛を逆立てながら周りを威嚇する可愛い子猫。調子に乗って手を出したりしたら、思い切り引っ掻かれてしまう。ますます子猫みたいだと思わず頬を緩ませた。今度擦れ違ったときには、「やあ、可愛い子猫ちゃん」と気障ったらしく言ってやろう。顔を真っ赤にして怒るティエリアを想像して、口元が緩んだ。