安堵の指先
「――ア、ティエリア」
ぼんやりと、暗闇に輪郭が浮かんでいる。
「ティエリア、大丈夫か?」
「……ぁ…」
「ティエリア、ティエリア、俺だ。わかるか?」
「…ニ…ル…」
翡翠の眸が歪み、ぎらりと光る。彼の長い前髪がふわりと揺れた気配がした。
「…ニール…?」
「…ああ、そうだ。いい子だな、ティエリア」
皮膚の厚くなった指先が僕の頬を撫でる。少しかさついた、男の指だった。この指は、手は、いつも僕に安堵をくれる。
「苦しくないか?どこか痛いところは?」
「いえ……」
「…そうか、良かった。じゃあ、もう一度お休み。ずっと此処にいてやるから。…な?」
子守歌のような彼の声が心地好い。途端に瞼が重くなる。素直に頷くと、彼は甲斐甲斐しくシーツを直してくれた。
「…おやすみなさい、ニール」
「ああ、お休み」
あたたかい掌が瞼を覆う。その温もりに安堵する。彼の匂い。少しかさついた掌、指先。
――グローブはもう、外したのだろうか。
「…ニール、ね…」
眠りに落ちる瞬間、彼の低い呟きを聞いた気がした。