おやすみなさい








ソファに寝そべっている彼はどう見ても素面ではなかった。空っぽの硝子瓶と、部屋中に充満したアルコールの匂い。明らかに飲んでいる。その証拠に、いつもは蒼白とも言える顔色も紅く染まっていた。しかも、途中で熱くなったのか、白衣の前はだらしなく開けられている。

「ロイドさん、しっかりして下さい」
「ぅ、ん……?」

声をかけると、彼はゆっくりと身体を起こした。縮まった距離に、心臓が鷲掴みにされるような感覚を覚える。前の開いた白衣も心臓に悪かった。普段見ことの無いぴったりとしたインナーは華奢な彼の身体のラインを強調している。骨格自体はしっかりしているのに細く見えるのは、同年代の男たちよりも筋肉や脂肪が極端に少ないからだろう。いつ見ても、彼の細さは危うげな非現実さを感じさせる。酔って紅潮した頬と、僅かに潤んだ瞳に理性が揺れた。焦点が定まっていないところを見るに、どうやら相当呑んでいるらしい。若しくは、酒に弱いのかもしれない。とにかくロイドさんは酔いつぶれていた。

どちらにしてもこのまますぐに眠ってしまうのは明白だった。ソファで寝るよりかはベッドの方が全然マシだと思い、彼の背中と膝裏に手を入れてぐっと身体を持ち上げる。女性にするものだとは思ったが別に構わないだろう。それにこのまま放っておけば、彼はきっと風邪を引く。

宿直室に運んでベッドに寝かせてやる頃には、彼はすっかり寝入ってしまっていた。掛けたままになっている眼鏡を外し、先程より赤みの消えた頬に触れる。無防備な寝顔は、彼に似合わない形容詞ではあるが可愛かった。

「……おやすみなさい、ロイドさん」

このまま見つめていたら変な気を起こしそうだったので、僕は足早に宿直室から立ち去ることにした。