惚れた弱味








それを人は惚れた弱みと言う。



基本的に、ロイドは少食だ。スザクと比較すると四分の一ほどしか食べない上に偏食なので、せっかく裕福な家系に生まれ育ったというのに常に栄養失調気味だったりする。けれどもロイドに「もっと食べなければ駄目」と指摘しても「だってお腹いっぱいになっちゃうんだもん!」と頬を膨らませるだけで、まったく聞く耳を持ってはくれない。ロイドはとにかく他人の厚意に疎いのである。

「どうして食べないんですか!?」
「だ、だって美味しくないんだもん!」
「美味しくなくても、ちゃんと食べないといけません!」

スザクは甘く似た人参をロイドの口元に突き付けて、まるで犬をしつけるブリーダーの如く眉を吊り上げていた。ロイドは箸の先のグラッセを見て、うわぁ・・・と心底嫌そうに顔を歪ませる。根野菜は全体的に土臭いから嫌い、ピーマンみたいに苦いのは駄目、菜っ葉系は草食べてるみたいでイヤ、豆系は中身がザラザラしてて舌触りが気に入らない――…。アスプルンド家の調理師は毎日大変だったろう、とスザクは心中で合掌した。

「……どうしても食べなくちゃダメ?」
「ダメです」
「……ダメなの…?」
「だから、ダメですってば!」
「……絶対の絶対?どぉしても?」
「………………」

(う……っ)

瞳を潤ませながら首を傾げるロイドの仕草に、甘やかしたい気持ちがむくむくと頭を擡げる。駄目だ!とスザクは頭を振るが、どうしようもなく母性本能を刺激され―――結局スザクは折れた。

「あ、ねーねースザクぅ、冷蔵庫のプリン食べていーい?」
「……ひとつだけですよ。お腹壊すから」

こうやって甘やかすからいけないんだとわかっていても。ロイドに滅法弱いスザクのお陰で、ロイドの少食と偏食が更正されることはなかった。