おだやかなとき
「君は変わらないねぇ」
「…そうですか?」
周りからは変わったって言われるんですけど、と癖毛の青年は真面目な顔をして言った。
「それは、君の外側しか見ていないからだよ。根底は少しも変わっていない。真っ直ぐで、他人を優先させてるように見えるけど本当は自己中心的なの。最悪だね」
「…ロイドさんには言われたくないです」
「あは、そうだねぇ。僕は自分のことしか考えてないジコチューな人間らしいから」
へらり、とロイドは笑った。
「…でも、そんなアナタが好きです」
色素の薄い、髪と同じ色の睫毛が数回ぱたぱたと瞬く。アリガト、と感情の乗っていない声が返ってきて、スザクは思わず苦笑した。ロイドは本当に不意打ちに弱い。
「…なに、その顔」
「いえ、可愛いなぁと」
「…は、ちょ、僕、もう三十路なんですけど?」
「関係ないですよ」
「………」
押し黙ったロイドに、スザクはひっそりと笑った。薄赤く染まる目許と耳朶を見、笑みを深くする。一年以上も一緒にいれば、この難しい科学者の扱いにも慣れるというものだ。
「そういうとこは変わったよねぇ。臆面もなく可愛いなんて言う子じゃなかったのにさ」
「あまり会えなくなってから、ロイドさんの魅力を再認識したんですよ。」
「まだまだ子供の癖に生意気だね」
「そうですか?精神年齢はロイドさんより上だと思いますけど」
皇帝直属になってからスザクは図太くなった。時に図々しく振る舞うことを覚え、強引さを身につけた。日本人特有の――よく言えば奥ゆかしさや慎ましさを捨て、自己中心的に行動することのメリットを見出し、自分を最優先させるようになった。
「もー可愛くなぁい!」
「あはは」
「一年前は可愛かったのになぁ…」
「だって一年も前ですからね」
スザクは悪戯に笑い、僅かに腰を屈めて下からロイドを覗き見た。縮んだ身長差に、ロイドは子供の成長を実感した。
「本当に可愛くないねぇ…」
「ロイドさんが可愛いから良いんじゃないですか?」
「なにそれ!」
二人で声を出して笑い、馬鹿馬鹿しい会話は終焉を迎えた。そして、数週間ぶりに会えたというのにキスのひとつもしていないことに、スザクは気付いた。
「…ロイドさん」
「ん?」
そっと名を呼び、ロイドの笑みの残るやわらかな頬にキスを落とした。