どうしても君がいい
「ロイドは可愛いね」
そう言って、僕は自分の腕の中にすっぽりとロイドを収める。
「それに、温かい」
本当は、理由なんて如何でもいい。ただ僕はロイドを抱き締めていたかった。生きていれば体温が在るのは当然のことだけれど、僕はロイドの温かさに感動し、そして愛しさを覚えるのだから『恋』というのはとても不思議な感情である。ぎゅっと抱き込む力を強くすると、また始まった、とばかりに、ロイドが溜息を漏らした。
「抱き枕なら他を当たってって言ってるでしょ?ボクだって結構忙しいんだよ?」
「そんな寂しいことを言わないでよ」
抱き枕―――ロイドを抱いて眠る、その動作を差す名詞に僕はひどく動揺した。だが、絶対にそれを悟られてはいけない。僕はロイドを抱くどころか、告白すらしていないのだ。学院を卒業するまでは、過度な好意を示すことはしないと心に決めている。
時々、本当に時々、我慢が効かなくて暴走することもあるが、ロイドはそれを「大型犬がじゃれついてきた」くらいにしか認識していない。無防備な思考回路をいつか後悔させてやろう、僕の野望は日々膨らんでいた。
「女の子に頼めばいいじゃない」
「…えっ?何が?」
「だってシュナイゼル、女の子好きでしょ?」
ああ、そういうこと。確かに女の子は好きだ。否定はしない。可愛いし柔らかいし、だから誘われたら拒む理由は無い。でも、僕が好きなのはロイドだけだ。ロイドだけなのに。
(……ああ、何だか無性に腹が立ってきた)
ぽすんっとふかふかのベッドの上に、優しくロイドを押し倒す。軋むスプリングの音が、妙に大きく耳に届いた。アクアシルバーの睫毛に縁取られた瞳が、僕を真っ直ぐに捉えている。
「そんなことばかり言っているとイタズラしちゃうよ」
「イタズラって、何をするの?」
「うーん、どうしようか……って、何笑ってるの?」
「ふふ、だって、シュナイゼル、すごく楽しそうな顔してるんだもの」
このまま犯されても可笑しくない状況の中、ロイドはけたけたと笑っている。ロイドには危機感とか、というものが無いのかもしれない。認識が甘すぎるのだ。まあ、いつか後悔させてやるつもりでいるから、別にいいけれど。
「…ねぇ、ボクにじゃれつくのさ、そんなに楽しい?」
「すごく楽しいよ」
言いながら、ロイドへと馬乗りになる。すると、先程よりも大きくスプリングが軋んだ。この状況で「じゃれつかれている」と思っているのなら、それでも良い。僕の可愛い子に、少しお仕置きをしてやろうじゃないか。
「覚悟は、出来ているね?」
するり、とロイドの平らな腹を撫でる。そのまま手を脇腹へと滑らすと、びくんっと痩躯が跳ねた。
「やっ、んゃ…ちょっ、と、シュナイゼ…ひゃあああ!」
もぞもぞと動く手に、ロイドはいやいやと首を振り、激しく身体を捩っている。ロイドが擽りに弱いことは知っていた。笑いすぎて苦しいのか、目尻には涙を浮かべている。
「ふぁ……お、終わり…?」
答えの代わりに、僕はロイドの頬をペロペロと舐め上げる。これこそまるで大型犬がじゃれついているようだ、と僕は心中で呟いた。
「ひゃんっ!」
耳を舐めると、驚いたのか、ぴんっと勢い良く手足が伸びた。
「……可愛すぎて食べてしまいたくなるなぁ」
心の叫びがポロッと口から滑り落ちてしまい、ロイドがきょとん、と僕を見上げた。
「えっと、ごめん、何でもないよ」
誤魔化すように、ロイドの柔らかい頬へと手の平を滑らす。心地好さに目を細めたロイドは、まるで猫のようだった。
「ロイド、にゃーんって鳴いてみて」
「にゃーん?」
この自由奔放な猫をいつか捉まえてやる、と僕は心に誓った。