ホットチョコレート
「甘いもの、好きなんですか?」
ニコリと笑みを浮かべて問うは若き部下。久しぶりの休日に連れ出されたカフェで、ケーキを頬張るボクを見ての一言。
「うん!だぁいすき!ケーキも好きだけど一番はプリンかな!」
「じゃあ美味しいプリンが置いてあるところ、リサーチしておきますね」
あ、とスザク君がボクに手を伸ばした。
「…ぅん?」
「クリーム着いてますよ」
…と触れた指の、年相応では無い皮膚の厚さや固さに、不覚にもドキリとした。鍛錬を積んだ軍人のそれは、若者の割には無骨だけれど、意外と器用で繊細なことをボクは知っている。
──というか、この間思い知らされた。最近は毎日のように、手先の器用さに翻弄されつつも感心させられていたりする。
「美味しいですか?此処、オシャレだし、ケーキが美味しいよって友達が紹介してくれたんですけど」
「ふぅん…?」
「デートにも最適だって言ってたんです、だから」
ロイドさんを連れて来たくって。…そんな、顔を赤くして言われても。確かにケーキは美味しい。おかわりが出てきたらつまんでもいいなぁ、と思うくらいには。でも、どうして休日に部下と二人きりで、カフェでケーキなんて食べているんだろう。ボクは昔から人付き合いが良い方では無かったから、こうやって外でお茶をすることなんて滅多に無かったし、あるとすればシュナイゼル殿下に無理矢理お茶会に誘われたことくらい。
それにしても、スザクくんは折角の休みに上司とお茶してて楽しいのかな?どうしてボクを誘ったんだろう。セシル君とか、学校のトモダチとか、他にもいるのに。気になってそう尋ねたら、スザクくんは一瞬ポカンとして、それから小さく溜め息を吐いた。
「まだ自覚してなかったんですか?」
「ふぇ?何を?」
「……この間、僕、ロイドさんに告白しましたよね?」
数日前、パーツとしてしか見ていなかった部下に好きだと告白された。告げるときの真っ赤な顔が可愛くて「ボクも好きだよと」返したら、触れるだけのこれまた可愛いキスが降ってきた。啄むようなキスの雨が止んだと思ったら、逞しい腕にひょいっと抱え上げられ、宿直室に連れ込まれて、そして――あっという間に服を剥ぎ取られて、あらら?と思っている内に突っ込まれてしまった。
その日から、どうやらボク達は『恋人同士』になったらしい。
…らしい、というのは明確に言葉で示されていないからだ。だってボクは態度だけじゃ判らない。カタチの無いうやむやなモノを理解するのは苦手、昔から。論理がわかっていれば、簡単なんだけど。
「えっとぉ……うん?」
「どうして疑問系なんですか……」
溜め息を吐いてスザクくんはテーブルにガックリと項垂れた。よく解らないけど、落ち込ませちゃったみたいだ。名前を呼んでも拗ねたワンコはなかなか顔を上げないので、手持ち無沙汰にスザクくんの髪を撫でてみる。ふわふわとした癖のある髪の柔らかな感触は、嫌いじゃない。
「ねースザクくんってばー」
「…もういいです。僕は…こうして一緒にいれるだけで幸せですから…」
「んーそっかぁ。じゃあ、帰って暖まろうよ」
寒くなってきたし、ホットチョコレートでも飲みたいなあ、と心の中で加える。スザクくんが作るホットチョコレートは格別で、こんな寒い日には何杯でも飲みたくなってしまう。
「…その言葉、後悔しないで下さいね?」
ニコリ、とスザク君が黒い笑みを浮かべる。
「え?後悔なんてしないよ。だってスザクくんのって美味しいからだぁいすきだもん!」
「……!……!!」
「わぁ…っ?」
スザクくんは目玉が飛び出るかと思うほどにカッと目を見開くとボクの腕を掴んで席を立った。引き摺られるようにして店を出たところでピタリと止まると、手際良くコートを着せられ、マフラーを巻かれ、耳当てを装着された。何が起きたのか、よくわからずにポカンとしていると、再び腕を引かれ、転びそうになる。
「さっ、早く帰って暖まりましょう!」
あれ、機嫌直ってる。何かイイコトでもあったのかな?そんな取り留めの無いことを考えていると、早くとせがまれ、仕方なく歩を早めた。
とにかく、スザクくんの機嫌が直って良かった。たぶん、元からそんなに落ち込んで無かったんだろうけど。ホットチョコレートを飲みながら、その理由を訊いてみてもいいかなぁ、なんて思った。