あなたの声は傷を生む







ボクはボクに優しい人が好き。だからボクに優しくしてくれる彼のことを好きにならない理由なんてなかった。



「ボクね…シュナイゼルが好きだよ…」
「…本当に?…嬉しいよ、ロイド、ありがとう。僕も、君が好きだよ」


言って、伝えてどうなるかなんて、少しも考えていなかった。胸にくすぶるシュナイゼルを好きだという気持ちを伝えるだけで、せいいっぱいだった。そして、シュナイゼルはボクを好きだと言ってくれた。何度もボクを抱いてくれた。優しく、とても優しく。好きな人とするセックスは、本当に気持ち好かった。それはもう、涙が出るくらい。

でも、シュナイゼルはボクのものにはならなかった。だって、シュナイゼルは結婚しちゃったもの。


父親の遺伝子はしっかりと受け継がれていたようで、いろいろな女に手を出しはしていたようだった。だが、妻として迎えたのは、たったひとりだった。今、シュナイゼルは妻とボク以外にはセックスをしていないという。じゃあ、もしもその人との間に子供が生まれなかったら、どうするんだろう。

(違う女とセックスをする?)
(妻を捨ててボクのところに来る?)

(もしボクが女で、子供を孕めたなら、シュナイゼルはボクを一番にしてくれたの?)



「ロイド、聞いてくれ。彼女、妊娠したんだ。しかも双子だって言うんだよ。もう、嬉しくて嬉しくて…」

その言葉を聞いたとき、信じてもいない神を呪ってやりたくなった。

「…ロイド?もっと嬉しそうな顔をしてよ。君なら喜んでくれると思って話したのに」

哀しそうに眉を下げたシュナイゼルに、カッと感情が沸騰した。

「聞きたくない…聞きたくなかったよ…そんなこと!」
「…ロイド?どうしたの、落ち着いて」
「うるさいな…そんな顔で、他人の話をしないで…! 今ここにはボクしかいないんだからボクを見てよ…!」

子供が生まれたら、ボクは捨てられる。今、仮初めであるボクへの愛は、すべて生まれる子に注がれる。シュナイゼルは、生まれる子を愛でるばかりで、ボクを抱かなくなる。

「お願い、ロイド…拗ねないで…」
「拗ねてない!…ち、がうよ…ちがう……どうして、どうしてわからないの…?」

シュナイゼルは困惑気味にボクを抱き寄せた。広くて、暖かな胸。この腕の中で子は眠りに就き、祝福のキスを受ける。想像するだけで、居た堪れなかった。苦しかった。

「…なんで、ボクには子宮がないんだろう。どうして、シュナイゼルの子供を孕めないんだろう。どうせ望まれなかったなら、ボク、女に生まれたかったよぅ…。シュナイゼルの子を産みたかったよぅ…!」

堰き止められない思いが、零れ落ちていた。

「何を言ってるの。違うよ、ロイドは望まれないで生まれた訳じゃない。僕が、君の存在を望んでる」
「…ど、うして、そんなことを言うの?…シュナイゼルはずるいよ…」

望まれる嬉しさと永遠に受け入れられない哀しさとが、涙となって溢れた。シュナイゼルの綺麗な顔が滲んでいる。なにもかもが歪んで見えない。しらじらと嘘を紡ぐ唇すら、愛おしくてたまらなかった。

「ロイド…すまない……泣かせるつもりはなかった……」
「…んっ……やだ!……ん…っ!」

宥めるように、キスをされた。そのまま服を剥ぎ取られて、セックスをした。その途中で右足を攣った。制止を求めたけれど、駄目だった。何度も舌打ちを聞いた。きっと、ボクに苛ついていたのだろう。きっと、黙らせたかったのだろう。床の上でのセックスは普段より乱暴で、それでもひどく気持ち好かった。シュナイゼルの熱が体内に注ぎ込まれる。でもこの行為は何も生まない。

シュナイゼルはボクの存在を望んでなんていない。愛してもいないし、憎んでもいない。ボクに興味を抱いていない。そんなことは、初めてセックスしたときから知っていた。だって、ボクは賢いからね。



シュナイゼルはいつだって優しくて、いつだってボクの望むものを与えてくれた。それでも、いちばん欲しいものだけは、絶対にくれない。望んでも、シュナイゼルは聞こえないふりをする。


(お願いだから、愛してるって言って?)