ケダモニズム








あつい、そんな声を聞いた気がした。

真夏の閉め切った部屋は、確かに暑くて熱くて堪らない。滴る汗と組み敷く痩躯の熱に、眩暈がする。道理で室内にいても熱中症になるわけだ…と、僕は、今朝見たニュースをぼんやりと思い出していた。






暑さにも寒さにも弱い上司は、低血圧で朝にも弱かった。夜を共にした翌朝、気怠げベッドに横たわる姿は色香があって、そのまま上に乗っかって滅茶苦茶にしてやりたくなる。そんな欲望を理性で押さえつけ、ふるふると頭を振った。

「…ねぇ…スザク君…あついよぉ…クーラー入れてよぉ…?」
「扇風機があるでしょう」
「…だってこのマシーン、全然涼しくないんだもん」
「冷房病になりますよ?」

扇風機の首振り機能をオフにして、自分だけ強風を浴びながら、何が「全然涼しくない」だ。夜通しのクーラーは身体に悪いので、ロイドさんが寝付く前までしか入れないことにしている。前に一度つけっ放しにして寝たら、案の定ロイドさんは鼻風邪を引いてしまったのだ。鼻を啜りながら辛そうにしてたのに、もう忘れてしまったのだろうか。

「ボク、ほんとぉに融けちゃいそぉなんだってばぁ」

暑さのせいなのか、間延びした声と少し荒い息。手で団扇のようにパタパタと仰いでも、少しも涼は取れないだろうに。

「そんなに暑いなら、シャワーでも浴びてきたらどうですか?サッパリすると思いますよ」
「…えぇー?……めんどくさぁい」

ロイドさんが寝返りを打つと、ベッドのスプリングが小さく軋んだ。此方に向けていた身体を返して仰向けになり、あーとかうーとか小さく意味の無い唸り声を上げている。昨夜は――いや昨夜まではきちんと着られていたはずのバスローブが乱れて、白い肌を晒していた。生足がにょきっと伸びている様は、まるで誘っているようだ。寝返った際にずり上がったバスローブの裾から太腿の辺りが丸見えになっている。どうしようもなくムラムラする。下着を着けていないのに、なんて無防備なんだろうか。

「仕方ないですね……ちょっと待ってて下さい」

邪念を振り払うかのように、すっくと立ち上がる。キッチンへ行き、タオルを濡らした。緩めに絞り、程好く湿った状態にする。これで身体を拭いてやれば、少しは暑さも凌げるだろう。面倒臭がって動かないロイドさんが悪いんだ、文句は言わせない。

「ロイドさん」

ロイドさんの剥き出しの太腿に冷たい濡れタオルを宛てる。するとロイドさんは驚いたのか「ひゃあっ!?」と甲高い声を上げた。

「つ、冷たいよ」
「すみません、そんなに驚くとは思わなくて。でも、結構サッパリするでしょう?」
「うん……ん…気持ちぃ……」

答えたロイドさんの声に、僕は思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。身体を拭いているだけなのに、熱がどんどん下半身に溜まっていくのを感じる。

「ふぁ…くすぐったい……」

真っ白な内腿を拭いているときにロイドさんが漏らした声に、僕は発情した。







――声が漏れるから、と窓を閉めた。暑さに弱っていたロイドさんはすんなりと僕に組み敷かれた。もともと力の差は歴然なのだが、今回は殊更あっさりと、簡単に倒れてくれた。きっと、暑くて考えるのすら面倒になったのだろう。肯定も否定もされなかったので、そのまま行為に耽っている。

遮断された空気はひどく淀んでいて、なんだか苦しい。髪の間から、すぅっと汗が滴り落ちた。暑くて熱くてあつくて、頭の中が白く霞んでいく。

「あつい……」

組み敷いた身体は汗でしっとりとしている。合わさっている胸の鼓動はひどく速い。暑苦しい、それでも離れない。離れたくない。離れられない。


僕もロイドさんも、すっかり互いの熱に侵されてしまっていた。