日曜日の背徳





視界がソフトフォーカスを掛けたように視えるのは眼鏡を掛けていないからだ。矯正出来る範囲で目の悪い人間は知らずの内に僅かな視力に頼りきっている。だからなのか、ここ数年で裸眼では数十センチ先のものも判別出来なくなってしまった。

しぱしぱと何度か瞬きをしていると、隣で眠っていた環が突如むくりと身体を起こした。おはよ、と擦れた声の挨拶に、低血圧で寝覚めが悪い俺は頷くだけで応える。素っ気無い反応にも環は全く気を悪くした様子は見せずに、にっこりと柔らかく微笑み、俺にそっとキスをした。頬に乾いた唇の感触。唇に降ってきたそれは、軽い音を立てて、すぐに離れていった。

「…………」

なんだ、つまらない。もう終わりか?

そう思って環を見ると、シャワーを浴びるのかのそのそとタオルを準備していた。俺は物足りないのに。表情に出ていたのか、環は慈しむような笑みを俺に向けた。一緒に浴びる?と言われたが緩く首を横に振って否定した。別にそこまで期待してはいない。それに面倒だ。残念、と環は苦笑いをした。見えない犬耳や尻尾がしゅんとうなだれたように見えた。

環には悪いがシャワーはゆっくりと一人で浴びたかった。そのまま盛り上がってしまう可能性もある、それだけは絶対に避けたかった。朝からセックスだなんて、絶対に嫌だ。考えられない。

ガチャン、と浴室のドアが閉まる音が聞こえた。少しして静かな部屋に水音が響き出す。俺はほっと溜め息を吐き、ベッドに再び横になった。身体がひどく疲れていた。セックスは気力体力精力、もろともすべてを剥ぎ取っていく。だから、あまり好きではない。あいつの為に言ってやれば別に嫌いという訳でも無いのだけれど。ただ、ものすごく疲れるのだ。

学生である以上、本業である勉学を怠ってはいけない。勉強と放課後の部活動、そして週数回のセックス。そのサイクルは疲労ばかりを溜めていく。まあ、なかなかに刺激的ではあるけれど。けれど、爛れている。

そんなサイクルは俺がねじ曲げでもしない限り半永久的に続くのだろう。否、きっとすぐに終わる。呆気なく幕を閉じることとなる。だって、須王家の跡継ぎと鳳家の三男の恋愛ごっこがいつまでも続く訳がない。だって俺は、環は、子供が生めない。それでは駄目なのだ。環は須王を継いで、子供を孕ませ生ませなければならないのだから。そう、俺達の行為は何も生まない。非生産的な行為の繰り返しは、何の意味も持たないのだ。

ああ、何て滑稽なのだろう。いつか俺達は別れるときが来る。そう遠くない未来に。捨てられる、もしくは捨てる。袂を分かつ。まるで当たり前のように。ゆるやかに褪せる環のすべてを想像して、ぶるりと身体が震えた。こうやって寄り添うのにも、タイムリミットが付きまとっている。うんざりする、とても。だが、それも楽しいと思えるくらいには、俺は環が好きなのだ。


そう思ったら急にしたくなったので、俺はシャワールームへと駆け込んでやった。



(そういえば今日は日曜日なのだ)