あのころを恋しがるのはきっと自分だけだ






鏡夜と別れて、三年が経った。

会いたいと願うのは自分ばかりで、こちらから連絡して約束をしなければ顔も見られなくなってしまった。俺は月に一度、我慢出来なくて鏡夜にメールをする。以前は自分が我慢だとか、そんなこと考えもしなかったのに。どうして鏡夜に遠慮するようになってしまったんだろう。俺たちの関係は確かなものであったはずなのに、今では親友とは呼び難い曖昧な関係になってしまった。

つまりは後退しているのだ。このままではいつの日か廃れてしまうのではないかと思っている。だから月に一度だけ、俺はこわくなって鏡夜と会う約束をする。会ってもらう、と言ったほうが正しいかもしれない。



たまき、と心地好いテノールが囁くように俺を呼んだ。ずっと渇望している愛しい人の声だ。何だかおかしい。俺がいるのはベッドの上で、俺の下には脱げかけのシャツを纏った鏡夜がいる。そして俺は、そんな鏡夜を組み敷いている。

どうやら俺は最中に違うところへと意識を飛ばしてしまっていたらしい。だが、それは一瞬のことだったようで、鏡夜の表情に不快感は浮かんでいない。鏡夜と別れてから、こんな風に過去に焦がれて現在(いま)を疎かにするのが癖になっていた。いけないと思うのに、思い出に浸るのは心地良くて、どうしてもやめられなかった。

「…お前……」
「ん?なぁに?」
「…いや。随分がっついてるな、と」

挑発するように、鏡夜が笑う。ほんの少し乱れた衣服から覗く滑らかそうな白い素肌に眩暈がした。そして、釘付けになる。ドクリと心臓が変な音を立てたのを聞いて、ああ俺は欲情しているのだと思った。

「…っ、ん…」

カリ、とシャツの上から胸の突起に軽く歯を立てると、鏡夜は小さく甘い声を上げた。鏡夜の目許が一瞬で朱に染まる。耳まで真っ赤になりながら、手の甲で口元を覆って声を抑えようとしている様は、とても可愛かった。

…ああ、もうホントに可愛いな、気持ち好ければ声が出るのは普通なのに。

「…ね、鏡夜、声…ガマンしなくてもいいよ?俺、鏡夜の声が聞きたい。ちゃんと鏡夜が気持ち好くなってくれてるのか、しりたい」

鏡夜は緩く頭を振った。強情め。それでも無理強いはしたくないから諦めるしかない。舌先と左手で胸の突起を刺激しつつ、片手でベルトを外した。突起を摘む度に、鏡夜の身体がびくびくと敏感に跳ねる。シャツを捲ると、それは果実のように赤く熟れていた。

「ん、ぁ…」

ファスナーの先の膨らみを確認して俺は嬉しくなった。鏡夜も興奮してくれてる、気持ち好くなってくれてる。もっと、と欲が出た。

「…ぁ、だめ、だ……っ」

膨らみに下着の上から触れると鈴を震わせたような甘い声が漏れた。じん、と中心が熱を孕むのを感じる。実は鏡夜はすごく敏感なのだ。転入して間もない頃、脇腹をくすぐったらひどく怒られた記憶がある。俺は、あの頃から鏡夜のことが好きだった。悩んだ末に玉砕覚悟で告白をして、オーケーを貰えたときの喜びは今でも忘れられない。思えば須王家に取り入るために断るわけにはいかなかったのかもしれないけれど、それでも拒まれないことが堪らなく嬉しかった。

「…鏡夜…指、いれるよ……?」
「ん、ぅ……ッ!」
「……痛い?」

鏡夜はふるふると頭を振った。だが、形の良い柳眉は顰められていて、それが否定なのか肯定なのか、よくわからない。

「…ごめん鏡夜、ちょっと腰上げて?コッチのほうが負担少ないと思うから」

半分ほど埋まった指をそこから引き抜いて、ベッドサイドの小さな引き出しからローションを取り出した。とぷん、と直接それを鏡夜のナカに注ぐ。鏡夜の総身が、ひくんっと強張ったのがわかった。

「つ、めた…いだろ、ばか……っ」
「…ごめん、でも温めてる余裕なんて無いでしょう?…俺も、鏡夜も。…それに、すぐ、熱くなるよ」
「な…ん、あぁ…ぁ……ッ!」

濡れそぼる場所にそうっと指を挿し入れる。ぐちゅっとイヤラシイ音を立ててソコが指を飲み込んだのを見て、俺は少し感動した。ああ、鏡夜は俺を受け入れてくれる。そう、安堵して。それでも恐々と、鏡夜のナカを探った。たまらなくあつくて、きもちいい。やわらかい粘膜は俺の指をきゅうっと捉えて離さない。指を動かす度に、中心から流れる蜜は快楽の証だ。

「ひ、ん……ッ!」

前立腺を掠めたとき、ひくんっと鏡夜の痩躯が波打った。ああ、どうしよう鏡夜、可愛すぎるよ。鏡夜のせいで、俺はいつも余裕がなくなってしまう。急ぎたいわけでも、無理をさせたいわけでも無いのに。どうしてもひとつになりたいという欲望を抑えきれない。

「た、まき……も、いい……」

そんな懇願の混じる視線に中心が痺れるのを感じた。俺も、いれたい。鏡夜と、ひとつになりたい。うん、と頷いて足の間に身体を差し入れると、そのままゆっくりと繋がった。繋がった場所の隙間から、余分なローションがこぷっ、こぷっ、と何度も溢れ出す。

「…動くよ、鏡夜」
「あ…っ、ぁ、あ…っ!」
「ぅ…すご、鏡夜のナカ…あつい……」

普段の氷のように冷たく整いすぎている美貌は、とろとろに溶けて痴態を晒している。俺だけしか知らない、俺だけの鏡夜。愛おしい。大切にしたい。優しくしたい。でも不意に、堪らなく滅茶苦茶にしたくなる。泣かせてみたくなる。

「ぁ、あ…っ、ぁあ…っ、た、まき……っ」
「…ナカ、トロトロ……もっと奥まで、いってもいい…?」
「っるさ……っ、すきに、しろ……っ」

ズンッと腰を打ちつけると、鏡夜は咽喉をひきつらせた。質量が足りなくて、ローションが結合部からどんどん溢れ出す。粗相をした子供のように、俺たちの下半身はしとどに濡れていて、何だか可笑しかった。まだ余裕があるな、と頭の片隅で誰かが言う。余裕なんて少しもありはしないのに。

獣のように鏡夜に覆い被さる。距離が詰まって、鏡夜の匂いが強くなった。わずかに汗の匂いがする。けれども、全然不快じゃない。シャツを完全に脱がせて素肌を摺り合わせると、しっとりとしていて、気持ちが好くて、たまらなくなる。

「…鏡夜は、俺に会いたかった…?…俺は毎日会いたくて仕方なかったよ。でも…ガマンしてさ、堪え切れなくなった頃に鏡夜に連絡して……」

頬を無理矢理に持ち上げる。上手く笑えていないのは承知の上だったけれど、そうしないと泣いてしまいそうだった。

「…だから、こうしてる時に、考えちゃうんだよね。鏡夜をどこかに閉じ込めて、俺だけのものにしたいって……」
「……そ、んなの、無理、だ……っん、」

ああ、鏡夜。君は残酷だ。俺の気持ちを知ってる癖に、こうやって曖昧に受け入れて。踏み込ませないように、しっかりとボーダーラインを引いている。相変わらず、潔癖だね。敬服するよ。
知っていた。鳳と俺を天秤に掛けたら、どちらを取るかなんて。須王でなく、ただ一人としての俺を選ぶ訳がなかった。そんなのわかってた、わかってたけれど。ああ、わかっていたのに、どうしてこんなに苦しいんだろう。俺はきっと期待していた。鏡夜が俺を愛してくれることを。

「…あ、はは…やだなあ、冗談だよ」
「ひ、ぁあ……っ!」

鏡夜の漆黒の瞳が、ゆらゆらと揺れた。見開かれた切れ長の眼に、俺の無理矢理に笑った顔がしっかりと映っている。激しい突き上げに、鏡夜の瞳は閉じられた。固く。かたく。まるで、俺を拒絶するかのように。


受け入れなくてもいい、だからせめて、拒まないで。


(おねがい、)