100メートル
「祐希、」
俺はじれったくなって、名前を呼んだ。
話があるから一緒に帰ろう二人きりで!と有無を言わさぬ強引さで腕を引かれ、俺は仕方なく祐希と帰路を共にしていた。こいつの傍若無人っぷりは知っているが、あんなに真剣な声色は初めて聞いたから、俺はちょっと戸惑っていたんだけど。
(話があるって言った癖に、さっきから祐希は一言も喋らない)
「…なあ、祐希」
再び名前を呼ぶと、俺の腕を掴む力が強くなった。ついでに祐希は立ち止まった。そして振り返った。
「好きです」
「へ?」
突拍子もない台詞に、俺は思わず間抜けな声を漏らした。
「塚原要くんが好きです付き合ってください」
「な、なに言っ…!ばか、往来だぞ!」
「要くんとチューしたいしエッチなことしたいし、行く末は結婚したいです」
「だっ、から…往来だっつってんだろ!…罰ゲームか?罰ゲームだろ!悠太とか小ザルとか、みんな隠れて面白がってやがんだな!?」
「浅羽祐希は塚原要を愛してます」
「…っ、いい加減にしろよ!いつ人が通るかわかんねーっつーのに!お前はいつもそ…っ」
ふにっ、と唇にやわらかい何かが触れて、不意に言葉が遮られた。
「口封じ成功」
俺の視界いっぱいに、祐希がいる。
唇に生あたたかい何かが触れて、口封じ成功って祐希が笑って…もう何だよこれ意味わかんねえよ!
「…ね、信じてくれた?」
「知るかっ」
俺は泣き出しそうになりながら祐希の脳天をぱしりと叩いた。祐希は痛いよ要、ひどい、とか言いながらも嬉しそうに笑っている。
「お返事は塚原宅に到着するまでにお願いします」
俺の家まで、あと100メートル。